Column

兄が遺産を独り占めしている場合はどうする?相続分を守るための対処法

兄が長男であるという理由だけで、遺産をすべて取得できる決まりはありません。遺言がなければ、子の相続分は原則として等しく、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所に分割を請求できます。遺言で兄に多く遺されていても、子などの遺留分が侵害されていれば、金銭の請求を検討できます。

公開日:2026年10月20日/更新日:2026年10月20日/執筆:イーグル法律事務所 明石オフィス

遺産関係の書類を前に、相続の取り分を確認する様子

兄が長男という理由だけで遺産を独り占めできる?

父の四十九日が終わったあと、兄から「家も預金も、長男の自分が継ぐ」と言われた。通帳を見せてもらえず、預金がいくらあるのかも分からない。このような場面で最初に確認するのは、遺言があるかどうかです。

現行の民法には、「長男だから相続分が多い」という定めはありません。亡くなった人の子は相続人になります(民法887条)。同じ順位の子が複数いるときの相続分は、等しいものとされています(民法900条4号)。

ただし、法定相続分が等しいことと、実際に受け取る割合が必ず等しくなることは別です。兄が生前に、住宅の購入資金などまとまった贈与を受けていた場合、その贈与が特別受益として、遺産分割で考慮されることがあります。相続人の一人が、亡くなった人の財産の維持や増加に特別な貢献をしていたときは、寄与分が問題になることがあります。遺言がない場合でも、法定相続分だけで最終的な取り分が決まるとは限りません。

遺言がないときの割合

配偶者と子がともに相続人のときは、配偶者と子の相続分は、それぞれ全体の2分の1です(民法900条1号)。子が複数なら、子の2分の1を人数で等分します。配偶者は、子がいる場合でも相続人です(民法890条)。

次の表は、遺言や生前贈与による調整がない場合の目安です。

民法900条(2026年10月19日、e-Gov法令検索で確認)。
相続人法定相続分
子だけが2人各2分の1
子だけが3人各3分の1
配偶者と子2人配偶者2分の1、子は各4分の1

たとえば、配偶者はすでに亡くなっていて子が3人だけ、という単純な例では、各自の法定相続分は3分の1です。兄が通帳を持っていても、それだけで預金が兄だけの財産になるわけではありません。遺言がなければ、遺産は相続人の共有になり、持分は法定相続分によります(民法898条)。

先に亡くなった子がいるときは、その人の子(孫)が代わりに相続人になることがあります(民法887条2項)。この記事の「兄弟」は、亡くなった親の子どうしを指します。亡くなった人の兄弟姉妹が相続人になる場合は、順位も遺留分も別です。

遺言があると、分け方は変わりうる

遺言があると、法定相続分と違う分け方を指定できます(民法902条、908条)。兄に多く遺す遺言があっても、それだけで他の子の取り分がゼロになるとは限りません。子や配偶者には遺留分があり、侵害されていれば、侵害額に相当する金銭を請求できます(民法1042条、1046条)。不動産が自動的に戻る請求ではありません。

遺留分があるのは、兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条)。親の子どうしの争いでは、各子に遺留分があります。遺留分全体の割合は、相続人が直系尊属だけのときは3分の1、それ以外は2分の1です。相続人が複数なら、その割合に各自の法定相続分を掛けます。

遺産の独占が起きる5つの典型例

「独り占め」という言葉で探していても、中身は次のように分かれます。対処法は、どの型に当たるかで変わります。

  1. 長男だから全部もらう、と言っている

    遺言がないのに、慣習だけで分け方を決めようとしている型です。法定相続分を前提に、遺産分割の話し合いを求められます。

  2. 通帳や不動産の資料を渡さない

    財産の全体が見えない型です。相手に開示を求めることと、金融機関や法務局に自分で確認することは別です。調べ方は、このあとの節と相続財産・相続人調査で案内しています。

  3. 遺言で兄に全部遺す、と書いてある

    まず遺言の内容を確認し、遺留分を請求できるか検討します。期限があるので、見つけた日を控えます。

  4. 亡くなる前後に、預金が引き出されている

    出金のすべてが不正とは限りません。生活費や介護費の可能性もあるため、取引履歴を見てから、遺産分割で扱えるか、別の請求が必要かを分けます。

  5. 遺産分割協議書への署名を急がされている

    全員が合意すれば、法定相続分と違う分け方も成立します。署名・押印する前に、財産の一覧と遺言の有無を確認してください。署名・押印したあとに合意を取り消せるかは、経緯によって判断が分かれるため、一概には言えません。

独り占めされそうな場合に最初に確認すべきこと

兄との話し合いが進まないときは、まず、次の5点を紙に書き出せるようにしておきます。これらを確認すると、調停を申し立てるか、遺留分の期限を気にするかが決まります。

相談前に揃える戸籍、遺言、預金、不動産、やり取りの資料
相談の前に、この5種類が揃っていると話が具体的になります。
  1. 相続人は誰か

    亡くなった人の出生から死亡までの戸籍と、相続人の戸籍で確認します。子だと思っていた人が相続放棄をしている、孫が代襲している、といった漏れがあると、一部の人だけの合意では遺産分割が成立しません。

  2. 遺言があるか

    遺言書があるかどうかは、自宅などに保管された自筆の遺言、公証役場で作成された公正証書遺言、法務局に保管された自筆の遺言の3つを中心に確認します。公正証書遺言は公証役場で、法務局に保管された自筆の遺言は遺言書保管所で、それぞれ所定の手続により確認できる場合があります。必要な書類は、各窓口に確認してください。

    自宅などで見つかった自筆の遺言は、原則として家庭裁判所の検認が必要です。公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用した自筆の遺言は、検認が不要です。

  3. 財産と借金の内容

    知っている金融機関には、相続人として残高証明書の発行を依頼できることがあります。必要書類は金融機関ごとに違います。不動産は、法務局で登記事項証明書を取り、名義を確認します。借金があるのに遺産だけを分けようとすると、あとから負担が残ります。

  4. すでに遺産分割協議書に署名・押印していないか

    内容を確認しないまま遺産分割協議書に署名・押印したり、実印や印鑑証明書を兄に預けたりすることは避けてください。実印や印鑑証明書を渡しただけで、直ちに遺産分割の合意が成立するわけではありません。知らないうちに手続が進められるなど、トラブルにつながるおそれはあります。まだ署名していないなら、財産の全体と遺言を見るまで保留します。

  5. 期限はいつか

    遺言があり、遺留分が侵害されているときは、相続の開始と、侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年で、請求権が時効により消滅します(民法1048条)。家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、この意思表示にはなりません。裁判所は、内容証明郵便などで別に意思表示をするよう案内しています。意思を伝えたあとも、支払を求める権利については、別に消滅時効が問題になることがあります。1年以内に請求すれば、その後は期限がない、という意味ではありません。

遺産分割が終わる前でも、相続人は、一定の範囲で預貯金を単独で払い戻せる場合があります。払い戻せる金額は、原則として、相続開始時の各預貯金の額の3分の1に、その相続人の法定相続分を掛けた金額です。同じ金融機関に口座が複数あっても、その金融機関から払い戻せる合計は150万円までです(民法909条の2、平成30年法務省令第29号)。

払い戻した分は、遺産の一部を取得したものとみなされます。これは、家庭裁判所の判断による仮払いとは別の制度です。兄の独占を止める手続ではなく、当面の払戻しです。

相続放棄は、遺産を取り戻すための手続ではありません。相続放棄をすると、原則として、預金や不動産などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も引き継がなくなります(民法939条)。

相続放棄をする場合は、原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で手続をする必要があります(民法915条、938条)。期間内に判断できないときは、この期間の伸長を申し立てられることがあります。詳しくは相続放棄のページをご覧ください。

兄が預金を引き出していた場合は取り戻せる?

亡くなる前の出金は、生前の贈与、亡くなった人のための支出、同意のない引出しを、分けて見る必要があります。亡くなったあとの出金も、使途、引き出したときの権限、ほかの相続人の同意を確認します。出金のすべてが、兄の使い込みとは限りません。生活費や介護費、税金の支払いだった可能性も残ります。

取引履歴を見たうえで、遺産分割の中で調整できる場合と、法律上の原因なく受け取った金銭の返還(不当利得)や損害賠償など、別の請求が必要になる場合があります。履歴を見る前に、不正だと決めつけないでください。

兄が通帳を見せない場合、自分で財産を調べられる?

兄が通帳を見せなくても、相続人であれば、自分で確認できる財産があります。相手に開示を求めることと、金融機関や法務局へ照会することは別です。

取引の心当たりがある金融機関には、相続人として残高証明書や取引履歴の開示を依頼できることがあります。必要な戸籍や印鑑証明書は、金融機関ごとに違います。全国の銀行を、一度に検索する制度ではありません。

土地や建物は、所在が分かれば、法務局で登記事項証明書を取り、名義を確認します。権利証が兄の手元にあっても、登記の名義が亡くなった人のままなら、その不動産が兄だけのものになったことにはなりません。

調べ方の全体は、相続財産・相続人調査で案内しています。

話し合いができない場合の法的な対処法

兄が「話すことはない」と言う場合でも、一人が拒んだからといって、他の相続人の取り分が消えるわけではありません。遺言の有無で、使う手続きが分かれます。

遺言の有無による対処の流れを示した図
左は、子どうしで遺言がない場合の流れです。遺留分侵害額請求は、相続の開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年でできなくなります。

遺言がないとき

共同相続人は、遺言で分割が禁じられている場合などを除き、いつでも協議で遺産の全部または一部を分割できます(民法907条1項)。協議が調わないとき、または協議ができないときは、各相続人が家庭裁判所に分割を請求できます(同条2項)。一部の人だけの合意では、遺産分割は成立しません。

家庭裁判所では、遺産分割調停として申し立てます。相続人の一人または数人が、他の相続人全員を相手方にします。申立先は、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所です。申立ての収入印紙は、被相続人1人につき1,200円です。連絡用の郵便料は裁判所ごとに違います。これは裁判所へ納める費用で、弁護士報酬とは別です。

調停では、双方の事情と希望を聴いたうえで合意を目指します。まとまらず不成立になると、自動的に審判が始まり、裁判官が分割方法を決めます。審判になれば必ず希望どおりになる、という意味ではありません。

遺言があるとき

遺言がある場合は、まずその内容と有効性を確認します。有効な遺言で兄が遺産の全部を取得することになっていても、他の相続人の遺留分が侵害されていれば、侵害額に相当する金銭を請求できます(民法1046条)。不動産の持分が当然に戻る仕組みではありません。

遺言書に書かれていない財産があるときは、その財産について遺産分割が必要になることがあります。作成の方法や、作成時の判断能力に問題があるときは、遺言の有効性自体が争点になることもあります。遺産分割の調停と、遺留分侵害額の請求調停は、裁判所でも別の手続として案内されています。

亡くなった日が令和元年7月1日より前の場合、裁判所は、現行の金銭請求の調停ではなく、改正前の遺留分減殺の手続になると案内しています。亡くなった日によって手続が変わるため、先に確認してください。

請求の意思表示は、調停の申立てとは別に必要です。知った時から1年が近いときは、金額が固まる前でも、請求の意思を相手方に明確に伝え、その証拠を残すことを検討します。計算の細かい条件は遺留分のページもあわせてご覧ください。

協議、交渉、遺産分割調停の三段階を示した図
交渉は、話し合いと調停のあいだで使える方法です。必ずしも交渉、調停、裁判の順番で進むわけではありません。
段階誰が動くか終わる形
遺産分割協議相続人全員全員の合意。一人でも拒否すれば成立しない
弁護士を通じた交渉依頼した弁護士が窓口になる合意できれば協議書に進む。できなければ調停を検討する
遺産分割調停家庭裁判所合意。不成立なら自動的に審判へ移る

上の表は、主に遺産分割の手続です。遺留分侵害額の請求は、同じ流れにはなりません。相手方への請求、交渉、家庭裁判所の調停を検討します。調停で合意できなかった場合は、民事訴訟による解決が必要になることがあります。遺産分割調停のように、不成立のあと自動的に審判へ移るわけではありません。

手続の流れは、裁判所の遺産分割調停の案内で確認できます。

遺産を独占されているときに避けたい行動

  • 財産の一覧も遺言も見ないまま、その場で実印を押すこと。署名・押印したあとに合意を取り消せるかは、経緯によって結論が変わります。
  • 腹立ちのまま、実家の物を持ち出したり、兄を犯罪者だと決めつけた文面を送ったりすること。出金が不正かどうかは、履歴を見てから判断します。
  • 「長男にはかなわない」と、年単位で放置すること。遺留分侵害額請求には、相続の開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年という期間制限があります。特別受益や寄与分も、遺産分割では10年を境に原則として考慮されません。経過措置と例外は、上に書いたとおりです。
  • 取り分を取り戻すつもりで相続放棄をすること。放棄は、預金や不動産も、借金も、原則として引き継がなくなる手続です。

弁護士に依頼できることと相談のタイミング

資料が揃い、兄と冷静に数字を確認できる段階なら、まずは相続人どうしで協議できます。次のようなときは、弁護士が窓口になった方が手続きが進みやすいです。

  • 通帳や遺言を見せてもらえず、相続財産の全体像が分からない
  • 話し合いが平行線で、自分から連絡すると感情的になる
  • 遺言があり、遺留分侵害額請求の期限が迫っている可能性がある
  • 協議書への署名を迫られている、またはすでに押してしまった

依頼すると、相続人への連絡、資料の整理、遺産分割調停の申立て、遺言がある場合の遺留分の期限の確認を任せられます。直接顔を合わせずに済むとは限りません。調停では、裁判所が事情を聴きます。弁護士が代理人として出席し、主張と資料を組み立てる、という使い方です。

弁護士報酬の金額は、この記事には記載していません。目安は弁護士費用のページで確認してください。裁判所へ納める収入印紙1,200円とは別です。

この記事で確認した法令

この記事は、イーグル法律事務所 明石オフィスによる一般的な解説です。法令の確認日は2026年10月19日です。個別の結論は、戸籍・遺言・財産の内容で変わります。

  • 民法(e-Gov法令検索)。この記事で用いたのは887条、890条、898条、900条、902条、904条の3、907条、908条、909条の2、915条、938条、939条、1042条、1043条、1046条、1048条
  • 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則3条。2023年4月1日より前に始まった相続にも民法904条の3を適用し、家庭裁判所への請求期限は、相続開始から10年を経過する時と、施行から5年を経過する時のいずれか遅い方。法務省の改正の説明資料は、すでに10年を過ぎていた相続の猶予の基準を2028年3月31日としている
  • 平成30年法務省令第29号。預貯金の単独での払い戻しの上限は、債務者ごとに150万円
  • 遺産分割調停(裁判所)。不成立時は自動的に審判。収入印紙は被相続人1人につき1,200円
  • 遺留分侵害額の請求調停(裁判所)。調停申立てだけでは意思表示にならない。令和元年7月1日より前の相続は旧手続
  • 遺言書の検認(裁判所)。公正証書遺言と、法務局保管の自筆証書遺言に関する遺言書情報証明書は検認不要。遺言書保管制度(法務省)

Contact

兄弟に相続分を認めてもらえず、
お困りならご相談ください。

相続・遺言のご相談は初回60分無料です。遺言の有無が分からない段階でも、今ある資料の範囲で見通しをお伝えします。

お電話でのご予約078-915-0670平日 9:00〜12:00/13:00〜18:00